TOEICを700点取れるぐらいの実力があると、既に英語の学習習慣があり、ある程度TOEICの試験にも慣れてくる頃であろう。800点もすぐそこだと、意気揚々となり、そして試験を受けるたびに奈落の底に突き落とされる。これは英語学習者であれば誰しもある経験である。ここから先はいくら音読しても、いくら多読多聴をしても、いくら語彙を増やしても、いくら試験問題を解いたとしても目に見える成長は見られない。これが現実である。
このプラトーを脱出するには留学が一番だが、なかなかそういった機会を作り出すのは難しいだろう。しかし私はこれを脱する方法の仮説を立ててみた。それは英語と日本語の違いをはっきり認識して、その違いに寄り添った学習を継続すべきだということだ。一つは発音である。これまでにも述べてきたと思うが、英語のリスニングは基本的に日本語に置き換えられる。つまり自分の認知している音に全て置き換えられて聞こえてくるのだ。これは一瞬の出来事であり、英語を聞いているという意識ははっきりしているため、気づかないことが多い。しかし実際に聞こえてくる音をカタカナとして聞いているため、ところどころ聞こえない単語が出てくる。これはかなり理解を妨げる。したがって発音を身につけるのは必須である。これはまず聞こうという姿勢から自分が発音しようというアウトプットの姿勢にならないと解決できない。そして日本語に無い発音は自分の口で何度も発音し、そのための舌と口の筋肉を徹底的に鍛える必要がある。
二つ目は言語そのものの性質を知る必要がある。これは学校で教えるべきことだが、こういう重要な概念、本質こそ教えないのが日本の教育だと感じる。それを教えないから単なる暗記競争としての受験があり、受験勉強そのものの価値を低めている。英語の本質的な特徴は多義語である。「open」「line」など簡単と思われる単語でもその意味は数十個もある。これは英語の「発信の合理性」を追求したためで、少ない語彙でも多様なコミュニケーションが可能となっている。「たった1000語でこれだけ話せる」のような本を本屋で見た方も多いと思うが、実際の意味の数は数万であり、その中から文脈により意味を抽出する必要があるため単語の数が重要ではない。したがって、このような本は題名は本当でも実際はウソである。
英語は多義的であり、その結果無数の意味や用法が生まれてくる。そしてその単語の意味の広がり方はさまざまであり、大きく広がるものあれば、横に長くなるものもある。我々が単語を覚えるという行為はある広がった意味の一部を見ているに過ぎない。単語の一部の意味や用法を知ったところでいびつな形でつかんでしまったイメージでは完全な英語の理解はできない。したがって「高校までで6000語覚えました」といったところで実践で何の役にも立たないのは、その理解が浅く、実際はそれらを使いこなせていないことから起こる。英単語のコアの意味をつかんで、包括的に意味をとらえないと真の英語学習の効果を感じることはできない。
ここで知っておくべきことは日本語と英語の根本的な違いである。
英語の基本精神は「自然科学」であり、「もの」と「抽象概念」を明確に切り分けている。これが名詞に「countable」, 「non-countable」がある意味なのである。あなたは「命」の意味の切り分けができますか?「life」は「もの」と「抽象概念」を完全に切り分けています。
ものとしてlife -------- countable
事故などで失われた命、人の一生、a miserable life のように形容詞をつけ限定するとこで具体的になると
抽象概念としてのlife -------- non-coutable
抽象的な意味、哲学的、観念的に使われる場面での命
英語はこのように「もの」と「抽象的、精神的なもの」として一つの単語でさえ切り分け、その意味の明確化するために可算名詞、不可算名詞という概念を言語の中に内包している。こうした「種類わけ」という行為がそもそも言語に備わっているということをまずは教えなければならない。日本語の持つ「すべて人間の観念が生み出した」というスピリチュアリズムで英語を考えると精神面のみを重視し、可算不加算の考え方を無視してしまい、英語の理解が破綻する。
そうしたことを防ぐにはもう一度基本に立ち返り、認知言語に従った学習を行わなければならい。「知っているつもり」になっている単語が実際は理解できていないという現象をクリアするには大変なハードルである。単に上級者用の英単語を覚えれば済む話ではない。この「知っている」単語を自由自在に使いこなせるようになって初めて次のステージに行くことができる。この部分においてやはり留学というものは大きなチャンスである。生の生活で使われる英語を知ることでその単語の基本的な意味とその広がりが実際の場面で確認できるからである。私はこの経験があったからこそ、今でも英語を楽しく学ぶことができるし、情報ソースを取る道具としてブログやyoutubeを活用できる。留学できない人はこの作業を日本で行わなければならない。これは大変難しいことだが、私の提唱するイメージで英単語を覚えなおしたり、日本のアニメのスクリーンプレイを使うことでわかりやすくかつ基本的な単語の使い方のイメージが湧くと思う。これまでの学習法を変えるのは勇気のいることだが、半年ほど成長を感じていないという実感があるなら、これまでの成功体験を捨てて一から勉強をし直すつもりで臨んだほうが、結局は近道だと思う。
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